コーポレートガバナンス・コード改訂で問われる独立社外取締役の役割、責務 JACD
宮内義彦JACD会長
今年度設立20周年を迎える上場企業・大会社の会長、社長、取締役、執行役、管理職を対象に、コーポレートガバナンスの情報・知識を提供する集まり、日本取締役協会(JACD)が、5月19日に第19回定時総会を開催。宮内義彦会長(オリックス シニア・チェアマン)は、以下のように会長所見を述べた。
「本年度、日本取締役協会は設立20年を迎えます。取り巻く環境も、2002年の会社法改正による委員会等設置会社とその機関設計から始まり、スチュワードシップコード、コーポレートガバナンス・コードの導入など大きく変わりました。
従来から課題とされていた企業成長への施策として、コーポレートガバナンスの推進が更に図られようとしています。具体的にはコーポレートガバナンス・コードの改訂や東京証券取引所のプライム市場の創設などが挙げられます。コード改訂は多くのポイントがありますが、中心はプライム市場における独立社外取締役の増加であり、取締役会の3分の1や過半数にしていこうという動きです。
最近のコーポレートガバナンス・コード改訂の動きには若干気になる点も指摘せねばなりません。
コーポレートガバナンスの主役である、独立社外取締役の役割、責務として、経営に対する『助言、アドバイス』それに伴う『取締役のスキルマトリックスの開示』など執行に関わると思われるところが、本来の役割である『監督』より、重要視されているように見える点です。それが独立社外取締役の人材不足の理由にされたり、伝統的企業の不祥事などに起因する独立社外取締役への不信感醸成の理由にされているのは大変残念なことで、思えばその役割についての議論にはあまり進歩が見られません。
コーポレートガバナンスの本来の目的、何の為に独立社外取締役を導入するかの理解、考え方が曖昧で、独立社外取締役を入れるという形だけを整え、独立社外取締役が機能するような執行と監督の分離、執行側のモニタリング機能に対する不十分な理解、独立社外取締役側のなすべきこと、あるいはなさざるべき事の認識が全体として十分とは言えないことに原因があると思います。
経営、執行側の業績を短期、中長期に市場の動きを考慮しつつ、目標と照らし合わせて評価し、細かい欠点を指摘するのではなく、経営者に企業の更なる成長を促し、その後押しをすることが役割であり、その評価に基づき報酬委員会が報酬を決め、将来の経営人材を考え、成長が望めない場合は、経営をほかの人に代わってもらうなど指名委員会が機能しなければなりません。
そのような執行側と、独立社外取締役両方のやるべきことへの合意がなければコーポレートガバナンスは機能しません。
最近、経営者はコロナもあり、社員の意識変革を標榜している会社が多くありますが、変わらなければならないのは、むしろ経営者の方なのかもしれません。
各種コード、東京証券取引所等において様々な前進がある中、各企業ではコーポレートガバナンスの実質的な役割分担が不十分なまま、独立社外取締役に『助言』を期待する、独立取締役が執行責任を負うようなところまで介入しようとする、機能分割できない取締役会が作られるとしたら、ガバナンスの本質から逸脱するものと言わざるを得ません。
そのような環境下、日本取締役協会は、コーポレートガバナンスの目的を企業成長への仕組みと捉え、独立社外取締役の役割は執行部への監督であり、監督を有効にするためには、取締役会の運営にも監督と執行の分離に意を用いることを主張してまいりました。今後取り組むべきテーマとしては、現在の会社法が三つの形態を認めることが果たしてガバナンス確立の弊害となっているのではないかといった根本的な疑問、矛盾をどう見直していくべきかといった課題もあります。更に付け加えますと、ガバナンス確立の基本の一つである、独立取締役が行う監査機能と従来の監査役の役割とは全く異なるものであるにもかかわらず、両者を混同したり同一視して考え、組織として捉えることが半ば容認されていることに大いに懸念を持っております。従来の監査役は執行部門であり、ガバナンス上の機能を欠くことが明白で、取締役としての監査委員とは全く異なることを明確化させることも大きな課題と考えております。個別のテーマとしては監査委員会、指名委員会、報酬委員会の役割など各論にいたるまでを、会合や意見書、研修を通して理解を深める運動を今後とも続けてまいります」。
設立20年を振り返り、「欧米企業が必ずしも100点とは言えないが、日本企業のコーポレートガバナンスは及第点で、まだこの程度。あまり変わっていない点では残念で、このままではモノ言う株主の草刈り場になりかねない」と宮内会長は述べた。
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